「新しい歌」(未来へ向かって)の解説
定期演奏会プログラムより
松下 泰久
 
〈第4ステージの選曲にあたって〉
 20周年記念演奏会の締めくくりとしての最終ステージに何をのせるか、2年ほど前からかなりの模索期間があった。その中でメンバーからあがった声は、これから更に30周年、40周年に向けての倉男の方向性とその可能性を示せる曲を選ぼうということであった。そして、その形態は、10周年で行ったような委嘱作品の演奏や、大曲といわれる「定番」の組曲の演奏ではなく、様々なジャンルの作品にどんどん触れていこうという、メンバーの心意気の強さを示せる形を望むものであった。ただ、本日演奏する曲目は、逆に合唱の世界ではもはや「定番」に近い作品かもしれない。

 しかし、これらの曲の練習の中で、伴奏者としてではなく競演者としてのピアノに対する意識の変化、声以外の「体を使った音声」表現などを通して確実に団として変革を始めている。その意味ではこの第4ステージの曲は、倉男にとって「新しい歌」である。

 このステージは、これまでどおり日本語のみならず他の言語の持つ「美しい言葉の響き」を追求しつつ、これからもステージに立つ限り、その詩に込められたメッセージや叙情性を一層表現できる合唱団でありたいという願いの実現の端緒となるステージとするつもりである。

 
1 きみ歌えよ  作詩:谷川俊太郎  作曲:信長貴富
5 新しい歌  作詩:G.ロルカ 訳詩:長谷川四郎 作曲:信長貴富
  「きみ歌えよ」「新しい歌」とも、2000年5月3日に第49回東京六大学合唱連盟の定期演奏会で合同演奏により初演された委嘱曲である。全5曲のうちの第3曲目と第1曲目であるが、5曲とも5人の詩人のそれぞれの歌に寄せる思いが伝わる詩である。
 
2 Als die alte Mutter  作詞:A.ヘイドゥック 作曲:A.ドヴォルジャーク 編曲:福永陽一郎
  倉男が以前取り上げた同名の「ジプシーの歌」はブラームスの作品集であったが、今回のこの曲を含む歌曲集は、同じ19世紀ロマン派の時代の作曲家ドヴォルジャークによるものである。ジプシー音楽の持つ緩急激しい流れと、ドイツ人が編集したドイツ語訳のジプシー民謡に創作メロディーをつけた点で共通ではあるが、この曲集は歌曲であったものが、合唱指揮者でもあった故福永陽一郎氏の編曲によりすばらしい合唱曲へと変貌を遂げており、その中でもCM等で有名な1曲である。
 
3 Wenn so lind dein Auge mir   作詞:F.G.ダウマー 作曲:J.ブラームス 編曲:福永陽一郎
  2と同じく故福永陽一郎氏の編曲による、ブラームスの作品集の1曲である。もともと、混声の4声部の重唱と4手のピアノの連弾のために書かれた作品である。どの曲も緩やかなワルツのテンポに甘い歌詞が添えられている。作曲者のウィーンへのあこがれのような作品である。
 
4 聞こえる  作詩:岩間芳樹 作曲:新実徳英
  実はこの曲は3年ほど前に、コール・クライネの定期演奏会で演奏したことがある。もともと平成3年度のNHK学校音楽コンクールの高校の部の課題曲であったものだが、かなりメッセージ性が強く当時の社会情勢を踏まえて作詞された内容である。混迷の社会情勢はおそらく15年経った今も変わりなく、それどころかさらに不安を抱えた現在を過ごしている。歌詞の中では、その先行きの見えない社会に対する若者の苛立ちや解決への希望が歌われているが、その希望を果たしてわれわれ倉男が表現できるか、3年前の「新たな」倉男によるリベンジである。